一般意思2.0
1. 概要
★うらがき
民主主義は熟議を前提とする。しかし、日本人は熟議が苦手と言われる。それならむしろ「空気」を技術的に可視化し、合意形成の基礎に据える新しい民主主義を構想できないか。ルソーを大胆に読み替え、日本発の新しい政治を夢想して議論を招いた重要書。文庫化に際し政治学者・宇野重規氏との対論を収載。
★3行要約
- 従来は成しえなかった、「無意識の可視化」がテクノロジーによって実現されつつある
- 従来の政府の在り方は大衆の意思を集約し代行する機関であったが、無意識が可視化されるにつれて「大衆の欲望」に制約を受けながら統治する機関へと変わる。
- 多様化した専門知識と、可視化された「空気」が、人々の考えや国家運営に対して強力な影響を与える時代に突入する
★著者概要
東 浩紀
1971年東京都生まれ。哲学者・作家。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。株式会社ゲンロン創業者。
「存在論的、郵便的」(新潮社)、「動物化するポストモダン」「ゲーム的リアリズムの誕生」(講談社現代新書)など
2. 書評
★エッセンス
テクノロジーとネットワークの進歩に伴い、人々の無意識は可視化されてデータベース化され始めている。
ルソーの考えた一般意思が、人々の無意識を可視化するという手法によって拡張され一般意思2.0へとアップデートされつつあるのである。
人々のつながりも、国家に対して服従しながら地域性のあるコミュニティを形成するというモデルから、
国家のつながりを超えて専門性に従って流動的に形成されるモデルへと変化してきている。
従来型の政府は、「政治専門家」が「国民の意思」を「熟議」によって一般意思として代行していく組織であったが、
現代においてはむしろ、データベース化された国民の無意識をくみ上げ、その無意識を制約条件として国家運営を達成するというモデルに変化すると考えられる。
現代においては、専門性が多様化し、人々は自分の興味のあること以外をあまり知らないという状況に陥る。
良く言えば、どんな人でも時間と興味さえあればその道の専門家になりうるという可能性がある。
政治家が政治専門家として価値があるのは、一般市民と異なり四六時中政治について考えられるという点である。
逆に言えば、一般市民の意見は専門性を欠いているので従来型の熟議に依る政治に介入する事は非常に困難だと言える。
しかし、民主主義である以上、一般市民の声は政治判断に影響があってしかるべきである。
ここで影響力を与えるのがデータベース化された民衆の無意識である。
専門性の無い意見であったとしても、データベース化され可視化されることにより
政治家の判断に影響を与えることができるようになる。
これこそが、一般意思2.0によって形作られる民主主義2.0の世界である。
★おもうところ
読書感想になってしまうのだけれど、哲学書は読み慣れていないのでとても疲れた。
おまけに、ルソーもフロイトもちゃんと理解していないものだから、それでも読み進められたのは
東氏の丁寧な論述に依るのかもしれない。
多分、エッセンスで書いたことは専門家からすれば間違いだらけなのだろうな、と思いながらも
無意識を可視化するために文章化してみました。
この本の中で、一番響いたのは:
- 無意識を可視化する = 「空気」を可視化する
- 膨大な情報をいかにそぎ落とすかが価値となる
という点です。
〇無意識を可視化する
「空気」とは、人々のコメントやツイートをつなぎ合わせれば、群衆が持つ意見の方向性を知ることができるという意味で使われています。
これを、個人にも広げるならば、人の考えていることを客観的な観察で知ることができるのではないかと思います。
人間でも、営業職の方や接客業の方など、往々にして「空気を読んで」行動しているはずです。
それぐらい、私たちの行動の中にはヒントが隠されています。
テクノロジーが進んだことで、行動臨床心理学で評価される項目はパラメータとして取り出せるようになりました。
これらを全て繋ぎ合わせることができれば、個人に対しても「空気を読める」し、群衆に対しても「空気を読める」システムを
作ることができると思うのです。
個人の空気感と群衆の空気感、つまり、その場の雰囲気を客観的に観測すること。
そして、逆にその空気感を制御してやること。
これらを組み合わせることで、より人間味のある「心地の良い」システムが作れそうな気がします。
ただ、心の中を読まれているような不快感に襲われることは間違いないでしょうね。
今のシステムは、そういった不快感を避けるために敢えて「機械っぽく」ふるまう事を強制されています。
しかし、それも時間の問題で「それが当たり前」という世界になれば克服されるでしょう。
空気を読んで、個人も群衆も気持ちよくするシステム。
面白そうだ。
〇膨大な情報をいかにそぎ落とすかが価値となる
当たり前の事ではありますが、生データをどのように加工するか、というのはもはやデザインの一種だと思います。
膨大なセンサ情報を集めたとしても、そこに関連性が見いだせなければただのビッグデータです。
多くのテックベンチャーは、どのような切り口でセンサ情報を加工するか苦心しています。
このようにデータマイニング、データデザイニング(データサイエンティスト)は、
デザイナーとしてアーティスト同様に専門職として確立されていくのではないでしょうか。
★さいごに
この本のエッセンスは、もっと深いところにあるのだろうなと漠然と感じる。
今の僕の知識や能力じゃ表層のほんの一部しか読み取れていないのだろうなぁ。
どことなく、悔しい。
★次に読みたい
哲学書は頭が痛くなってくるので、もうちょっとライトなビジネス書を読みたい。
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